日本周辺は世界的に見ても非常に地震が多い地域です。特に太平洋に広く分布する薄い海洋性の地殻が大陸性の地殻の下に沈み込むことで発生する海溝型地震と呼ばれる巨大地震に古くから日本は多くの被害を被ってきました。最近では2011年の東北地方太平洋沖地震ですが、日本海溝から千島海溝の海域では、2003年の十勝沖地震をはじめ、多くの海溝型地震が発生してきました。南海トラフ海域でも1944年・1946年の東南海・南海地震、1954年の安政東海・南海地震、1707年の宝永地震など、繰り返し地震や津波の被害を受けてきました。相模湾から相模トラフの海域でも1703年の元禄地震、1923年の関東大正地震が発生しています。これらの巨大地震を引き起こす地殻の活動をいかにキャッチできるか、こういった取り組みが巨大地震発生の長期評価につながると考えています。
海域で発生すると、強震動だけではなく津波を引き起こします。気象庁が実施している緊急地震速報はP波の伝わる速さがS波よりも速い特徴を利用し、大きな揺れをもたらすS波到着前に地震の揺れを知らせる仕組みです。海底観測網は、海域に発生する地震については、陸域にS波はもちろんP波が到着する前に、地震発生を知らせることができます。津波は、地震を引き起こす断層運動によって海底が変動し、海面に高度差が生まれることで引き起こされる現象です。津波が陸域に近づき、その水深が浅くなってくると徐々に高さを増してきます。海底観測網は津波の発生を早期に検知し、徐々に高くなる津波を逐次監視することができます。
S-net、DONET、相模湾地震観測施設はそれぞれ海底にセンサーを設置し、早期に地震や津波を捉えようとするものですから、陸域観測網に比べて早く検知することができ、その猶予時間を被害を抑えるために使うことができます。検知までに必要な時間は地震や津波の発生場所によって異なりますが、 地殻が沈み込む海溝軸近辺で地震や津波が発生すれば、S-netやDONETでは地震は最大15-30秒、津波は最大15-20分早く検知することが可能になりました。これらの観測網による早期検知による猶予時間をいかに有効に使うか、考えなければいけません。また、この猶予時間を使えるような環境整備を進める必要があります。
【60倍速動画】
2016年11月22日5時59分頃に発生した福島県沖の地震による
陸域(K-NET,KiK-net)と海域(S-net)の強震動データ(リアルタイム震度)を統合した揺れの伝播の様子(強震モニタ)と
S-netの水圧データによる津波の伝播の様子(津波モニタ)
海底観測網は、地震や津波を早期に検知できることだけでなく、通常の地殻内の活動を監視することにも有効です。 2011年の東北地方太平洋沖地震では、2日前に前震が発生していますが、前震から本震に至る地殻の動きを監視することは 地震や津波の備えにとって重要です。南海トラフ域でも1944年の東南海地震の2年後に南海地震が発生したり、 その前の安政期の東南海・南海地震では30時間の時間差で発生するなど、様々なパターンがあります。2年と30時間では、防災対策や復興計画にも大きな違いがあるでしょう。
これらの動きを監視するために、微小地震が示す地殻活動の時空間変化や地殻変動を即時的に観測して、地震が発生する現場でどのような動きがあるのか、 わかりやすくモニタリングすることを当研究所では目指しています。例えばこれまでに、S-netでは微小地震の震源の塊が移動する様子を捉えており、 DONETでも地震とその余震、低周波地震という特殊なタイプそれぞれの特徴的な地震活動を捉えました。また、これらの地震をもたらす断層の動き方の時空間変化も捉えています。 海溝型地震と呼ばれる巨大地震の発生は、数値シミュレーションによる研究から、プレート境界が固着している時期、プレート固着がはがれ始める時期、 巨大地震発生の時期、巨大地震発生後にゆっくりとした地殻変動が発生してプレート境界の固着に至る時期の繰り返しであるといわれています。 そのため、この固着のはがれ始めという現象があるのかないのか、あるいは、いかに捉えるのか、を見極める必要があります。 このような地殻活動も陸上の観測網と合わせて観測することが可能になりました。
これら海底観測網の観測データをどのように使えば防災・減災対策に有効でしょうか。現在、早期検知ができる特徴を活かして、これらの観測データは気象庁による緊急地震速報や津波観測値の迅速な公表、津波警報・注意報の更新に使用されています。また、さらに広く海底観測網データを防災・減災対策に使用して頂くよう取り組みを進めています。
DONETデータは現在、和歌山県と三重県で沿岸での津波高と浸水エリアを即時的に予測するシステムに利用されています。 S-netデータも、広域に展開している特徴を活かして即時的に津波波源を推定して沿岸での津波を即時的に予測するシステムができつつあり、一部の自治体への導入の準備が進んでいます。津波だけでなく、 観測した地震動を用いて、電力や鉄道等の事業者による観測データの利活用の検討も進んでいます。また、特に超高層ビルでは問題となる長周期地震動について、日本周辺の厚い堆積層が長周期地震動を励起していることが、 これらの観測網データから明らかにすることが可能です。
地震や津波の即時予測と巨大地震発生の長期評価に向けた研究を今後進め、これらの観測データだけでなく研究成果も様々な事業の皆さんに応用して頂く取り組みを継続してまいります。